子育て広場「わいわいステーション」で、絵本に囲まれながら笑顔で語る濱田英世さん。

子どもの「やってみよう」を、
35年信じつづけて

元小学校教員の濱田英世さんが、塚口で小さな子育てサークルを立ち上げてから35年。「子育て支援は親支援」を理念に、世代を超えた人が集まる広場を、この街とともに育ててきた。

「子どもの『やってみよう』。その小さな好奇心が、その子の力を、ぐんと伸ばしていくんです」。小学校の教室で確かめてきたその思いが、濱田英世さんの35年の出発点になった。

教室で気づいた、好奇心の力

濱田さんは、もともと小学校の教員だった。1年生を何度も受け持つなかで、強く感じたことがある。「やってみよう」と思える子は、学力も、その後の成長も、大きく伸びていく——。そして、その好奇心を支えているのは、いつも親の存在だった。

結婚を機に教職を離れた濱田さんは、地元・塚口で、友人たちとひとつのサークルを立ち上げる。名前は「やんちゃんこ」。「ノリの良いやんちゃな子」を育てたい——その願いが、そのままサークルの名前になった。

公民館での週に一度の集まりから始まった活動は、やがて常設の拠点へと育っていく。平成17年には、厚生労働省の地域子育て支援拠点事業として登録された。

わいわいステーションで、手ぶりを交えて話す濱田英世さんと、それに耳を傾ける男子学生3人。
わいわいステーションで話を聞く、園田学園大学の学生たち

五感で遊び、季節を分け合う

活動の核にあるのは、五感をめいっぱい使う体験だ。ちぎる、貼る、描く、作る、そして食べる。鯉のぼり、七夕、夏祭り、クリスマス、餅つき——家庭ではなかなか難しい季節の行事も、ここでは一年を通して続いていく。

大切にしているのは、親も一緒になって遊ぶこと。子どもの取り組みを、そばで褒めて、ともに楽しむ。その姿勢を、濱田さんは何より重んじている。

「子育て支援は、親支援。親が元気で、楽しく子育てできること。そのための環境づくりが、わたしたちの軸なんです」 —— 濱田 英世さん

誰でも、無料で。地域の人が支える広場

やんちゃんこの広場は、誰でも無料で利用できる。国・県・市の委託を受けた、ひらかれた場所だ。

支えているのは、資格の有無を問わず、子育ての実体験を持つ地域の人たち。着付けなどの特技を生かすボランティアもいれば、行事をサポートする地元の男性もいる。さらに、小児科医、薬剤師、助産師、栄養士、保育士といった専門家が毎月訪れ、親の悩みに直接応える。子育ての相談を、地域ぐるみで受け止める体制ができあがっている。

拠点を訪れる人は、1年でおよそ8000人にのぼる。

「やんちゃんこ」の看板を掲げた拠点の前で、濱田英世さんと取材の学生たちが並ぶ。 拠点をやや引きで写した一枚。同じ顔ぶれが、入り口の脇に並んで立つ。

「地域」とは、そこに住む人

濱田さんにとって、「地域」という言葉の意味は、少し独特だ。それは、地理的な範囲のことではない。

口コミで、参加の輪で、つながりは少しずつ広がってきた。祭りやイベントは賑わい、街は、子育てを応援する優しい場所へと変わってきた。

「地域というのは、地理的なことではなくて、そこに住む人々そのものだと思っているんです」 —— 濱田 英世さん

スマホより、絵本を

いま、濱田さんが気がかりに思っていることがある。スマホに子守りを任せる育児が広がり、公園から子どもの姿が消えた。言葉の遅れや、表情の乏しさ——その影響を、現場で感じている。だからこそ、絵本のような、アナログで、泥臭い子育ての大切さを、濱田さんは説く。

少子化、働く母親の増加、転勤族の多さ、核家族化。親たちは、地域とのつながりや、大人との会話を求めて、この場所にやってくる。スタッフは、カウンターの内側にとどまらない。積極的に声をかけ、日々の何気ない会話から、信頼を積み重ねていく。

内気な子や、なかなか興味を示さない子には、まず親に「楽しいよ」と声をかける。サンタクロースの登場や、ハンドベルの演奏——そんな仕掛けも用意しながら、決して無理強いはしない。顔の見える、日常的な関わりのなかで、ゆっくりと関係を育てていく。

「生きる力」を、多世代で育てる

個人のサークルから始まった活動は、NPO法人になった。社会的な信用が増し、会費や寄付といった支援も受けやすくなり、運営の透明性も高まった。活動への理解と応援を、より広く集めるための仕組みでもある。

やんちゃんこが力を入れているのが、多世代の交流と、実践の機会づくりだ。中学生のトライアルウィークを受け入れ、「認定地域クラブ」の登録で居場所をつくる。地域の劇団も立ち上げた。小学2年生から83歳まで、発達に特性のある子も一緒に舞台に立つ。そうした経験のなかで、「生きる力」を育んでいく。

お金との付き合い方も、暮らしのなかで教える。カード払いの仕組みがわかりにくかったり、きょうだいで安易に貸し借りをしてしまったり。だからこそ、計算や判断を、生活の実践として伝えていく。

「面白そう」と関わる力を

仕事や、お金のこと。子育てに不安を抱える若い世代も多い。そんなZ世代に、濱田さんが伝えたいことがある。楽しむ姿勢を持つこと。失敗を恐れず、視野を広げる経験を重ねること。そして、多様な人と、コミュニケーションをとること。

35年。濱田さんが塚口で育ててきたのは、子どもだけではない。親も、地域も、一緒に育つ場所だった。

「何事も、『面白そう』と思って関わってみる。その積み重ねが、困難を乗り越える力になっていくんです」 —— 濱田 英世さん
やんちゃんこの拠点の前で記念撮影におさまる、濱田英世さんと男子学生3人。
取材を終えて。園田学園大学の学生たちと

※この記事は、2026年6月12日に園田学園大学ビジネス学科の学生が、やんちゃんこの拠点「わいわいステーション」で行ったインタビューをもとに作成されました。撮影・取材:園田学園大学の皆さん

濱田英世さんの横顔。

濱田 英世(はまだ ひでよ)

NPO法人やんちゃんこ 代表

元小学校教員。結婚を機に教職を離れ、約35年前に塚口で子育てサークル「やんちゃんこ」を創設。公民館での活動から常設拠点へと育て、平成17年に地域子育て支援拠点事業に登録、のちにNPO法人化。「子育て支援は親支援」を理念に、世代を超えた人が集う子育て広場を、地域とともに運営している。